社会保険労務士試験に楽に合格する方法論を研究するサイト
社会保険労務士試験情報局
トップページ社会保険労務士の勉強メモ 保険給付の制限  
■社会保険労務士の勉強メモ(健康保険法)




■故意の犯罪行為等の場合

1.要旨
被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わない。(法第116条)

2.「故意の犯罪行為により」とは?
(1)故意の犯罪行為により生じた事故について本条を適用し給付制限を行うためには、その行為の遂行中に事故が発生したという関係があるのみでは不十分であって、その行為が保険事故発生の主たる原因であると考えるべきであるという、いわゆる相当な因果関係が両者の間にあることが必要である。(昭和35年4月27日保文発第3030号)

(2)道路交通法規違反等処罰せられるべき行為中起こした事故により死亡した場合においては、自殺の場合にならい、埋葬料を支給して差し支えない。(昭和36年7月5日保険発第63号)

3.「故意に給付事由を生じさせたとき」とは?
(1)断食ストによる飢餓栄養失調は、直接争議行為に基づいて発生し、その発生につき予め認識していたものと認められるときは、法第116条に該当する。(昭和27年4月1日保文発第1978号)

(2)労働運動に参加し、市中デモ行進の途中、制限を無視したジグザク行進に移り交通事故を起こしたとき、ジグザク行進に移った際及びジグザク行進中にこれにより保険事故たる負傷、死亡が発生することにつき本人の認識があったものと認められる限り該当する。また該当しないとき、被保険者がその損害につき行進実施責任者又は自動車運転手に対し損害賠償請求権を有するときは、法第57条の適用がある。(昭和27年7月9日保文発第3825号)

(3)保険給付を受けようとする事故が、直接争議行為に基づいて発生し、かつ、その事故の発生についてあらかじめ認識していた場合においては、法第116条の故意に事故を生ぜしめたときに該当する。(昭和25年6月9日保文発第1303号)

(4)ストライキの鉱夫がもぐら戦術で長時間坑内に蟄居し、その結果高温な地熱と坑内に発生したガス等のために神経障害を来し中毒に侵され卒倒したときは、法第116条に該当せぬ。(昭和9年2月21日保規第42号)

(5)労働争議行為として海上にピケラインをはり、交代時誤って海上に転落負傷したときは、直接争議行為に基づくものであるが、事故発生について予め認識し得ないと思料されるので、法第116条に該当しない。(昭和28年8月4日保文発第4844号)

(6)料亭で泥酔し、隣室に乱入し、他客を殴打し、その客が怒り、炊事場から出刃包丁を持ち来り、突き刺し即死せしめたときは、故意に事故を生ぜしめたと認め難い。(昭和2年8月5日保理第2986号)

(7)自殺は、故意に基づく事故だが、死亡は最終的一回限りの絶対的な事故であるとともに、この死亡に対する保険給付としての埋葬料は、被保険者であった者に生計を依存していた者で埋葬を行う者に対して支給されるという性質のものであるから、法第116条に該当しないものとして取り扱う。(昭和26年3月19日保文発第721号)

(8)精神病その他の行為行為(結果を含む)に対する認識能力なき者に就ては「故意」の問題を生じない。(昭和13年2月10日社庶第171号)

(9)被保険者である父が被扶養者である妻と子供を殺して自分も自殺した場合「自己の故意の犯罪行為により給付事由を生じさせたときは、保険給付は、行わない」に該当するから家族給付の問題を生じない。(昭和27年6月23日保文発第3534号)

4.「保険給付は行わない」とは?
保険者が任意に支給、不支給にすることはできず、この規定に該当した場合は、保険給付は行わない。(全部給付制限)

■著しい不行跡等の場合

1.要旨
被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、その全部又は一部を行わないことができる。(法第117条)

2.「闘争」とは?
(1)喧嘩闘争の意義で、第三者よりの加害行為に対する正当防衛は包含しない。

(2)闘争により給付事由を生じさせたので、傷病手当金を半額に減少された場合に、その傷病手当金支給期間中他の疾病にかかり業務に服することができなくなったとき、傷病手当金は、両者を通じて全額支給する。(昭和2年12月13日保理発第3805号)

3.「泥酔」とは?
酒酔の程度の著しいもので、それが給付を制限する事由発生の原因となる程度のものをいう。

4.「著しい不行跡」とは?
(1)著しい不行跡で給付事由を生じさせた場合とは、一般社会通念によりその都度認定すべきものである。

(2)認定至難の場合が多いと思われ、かつ被保険者の利害に関することが大であるから、実際の適用については慎重な考慮を払うことが必要である。(昭和4年5月23日保発第56号)

(3)寄宿舎の女工が妻ある男子被保険者と醜関係を結び解雇されたとしても、不行跡として保険給付制限は行わぬ。(昭和12年9月24日保規第184号)

(4)女子被保険者で正当の夫婦関係以外の原因による妊娠に起因する疾病に対しては、著しい不行跡に該当しない。(昭和7年7月4日保規第232号)

5.「給付事由を生じさせたとき」とは?
闘争又は泥酔によりその際生ぜしめた事故をいうのであって、数日前闘争し、その仕返しに数日後不意に危害を加えられたような場合は含まれない。(昭和2年4月27日保理第1956号)

6.「全部又は一部を行わない」とは?
(1)適用するか否かは、事故の発生の都度当該事故についてのみ決定すべきもので、たとえば、傷病手当金の全部を支給しないか又は一部を支給しないかの区分及び一部を支給しないこととするもその程度等は保険者が適当に判断決定すべきものである。(昭和2年9月1日保理第3213号)(昭和3年3月29日保理第6505号)

(2)傷病手当金を支給するか否か、及び不支給の度合は、被保険者の家族の有無等、生計の状況を参酌して適宜決定する。(昭和4年5月23日保発第56号)

■収容または拘禁された場合

1.要旨
(1)被保険者又は被保険者であった者が、次の各号のいずれかに該当する場合には、疾病、負傷又は出産につき、その期間に係る保険給付(傷病手当金及び出産手当金の支給にあっては、厚生労働省令で定める場合に限る。)は、行わない。(法第118条第1項)

1.少年院その他これに準ずる施設に収容されたとき。
2.監獄、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されたとき。

(2)保険者は、被保険者又は被保険者であった者が前項各号のいずれかに該当する場合であっても、被扶養者に係る保険給付を行うことを妨げない。(法第118条第2項)

2.給付制限について
(1)少年院に入院させられた場合、監獄に拘禁された場合等については、公費負担があるために保険給付を行わない。

(2)第118条第1項該当中の者でも死亡の場合には埋葬料又は埋葬に要した費用に相当する金額は支給する。(昭和2年2月5日保理第490号)

(3)療養の給付又は傷病手当金の支給を受けている者が、その傷病が治癒せず、かつ1年6月に達せざる以前に於いて法第118条第1項各号の事由によりある期間保険給付を受けざりし場合、其の保険給付を受けざりし日数は1年6月に通算する。(昭和4年8月26日保規第44号)

(4)この規定による給付制限により、支給を停止されても、被保険者資格はその喪失事由に該当しない限り喪失しないので、給付停止期間中に発した傷病であっても、給付制限に該当しなくなった後、なお治癒していないときは、不該当日より保険給付が開始される。

(5)被保険者がこの規定による給付制限を受けた場合であっても、その被扶養者に対する保険給付には制限を及ぼさない。

■療養の指示に従わない場合

1.要旨
保険者は、被保険者又は被保険者であった者が、正当な理由なしに療養に関する指示に従わないときは、保険給付の一部を行わないことができる。(法第119条)

2.解説
この規定は正当な理由がないのに療養に関する指示に従わないものに対する給付制限である。
療養に関する指示は、適正な保険診療を受けさせることにより、すみやかに傷病を治癒する目的で行われる。
よって療養の指示に従わないことは治療を遅らせ、給付費の高騰を招き、かつ、他の被保険者に不当な負担を強いることになり、相互扶助の健康保険の精神に反するので、これを防止する目的で給付制限を行う。

3.「療養に関する指示に従わない」とは?
(1)保険者又は療養担当者の療養の指揮に関する明白な意思表示があったにも拘らずこれに従わない者(作為又は不作為の場合を含む。以下も同様とする。)(昭和26年5月9日保発第37号)

(2)診療担当者より受けた診断書、意見書等により一般に療養の指揮と認められる事実があったにも拘らず、これに従わないため、療養上の障碍を生じ著しく給付費の増嵩をもたらすと認められる者(昭和26年5月9日保発第37号)

4.「保険給付の一部」とは?
「保険給付の一部」とは、療養の給付又は傷病手当金について、その一部を指すものとすること。(昭和26年5月9日保発第37号)

※保険給付の一部となっているため全部を給付制限することはできない。

5.「行わないことができる」とは?

(1)給付制限の具体的取扱い
1.療養の給付については、正当の理由なく療養の指揮に従わない顕著な事実があって、これを矯正するのに他の手段が行われ難い場合に限り、制限の対象とすること。(昭和26年5月9日保発第37号)

2.療養の給付の制限事由は、通常保険医等の届出によって判明するのであるが、右の制限の事由に該当する場合には、保険者において、被保険者に対し被保険者証の提出を命じ証の「療養の給付記録欄」に、当該傷病について一定期間給付の制限を行う旨記載すること。(昭和26年5月9日保発第37号)

3.給付の制限期間は、船員保険法第54条の規定を参考として、概ね10日間を基準とすること。(昭和26年5月9日保発第37号)

4.傷病手当金の一部制限については、療養の指揮に従わない情状によって画一的な取扱をすることは困難と認められるが、船員保険法第54条の規定を参考とし、制限事由に該当した日以後において請求を受けた傷病手当金の請求期間1月について、概ね10日間を標準として不支給の決定をなすこと。(昭和26年5月9日保発第37号)

(2)更に反復累行する場合
療養の指揮に従わない事実が再度生じた場合には、上記(1)によって療養の給付又は傷病手当金の一部制限措置を繰り返すこととするが、更に反覆累行する場合においては、制限期間を加重すること。(昭和26年5月9日保発第37号)

6.留意事項
上記5の取扱をなすにあたっては、受給者の療養指導に重点をおくと共に、その権利を徒らに害することのないよう診療担当者との連絡指導につとめ、且つ、適正な事実の調査に遺憾のないよう留意すること。(昭和26年5月9日保発第37号)

■偽りその他不正の行為により給付を受けた場合

1.要旨
保険者は、偽りその他不正の行為により保険給付を受け、又は受けようとした者に対して、6月以内の期間を定め、その者に支給すべき傷病手当金又は出産手当金の全部又は一部を支給しない旨の決定をすることができる。ただし、偽りその他不正の行為があった日から1年を経過したときは、この限りでない。 (法第120条)

2.「偽りその他不正の行為」とは?
被保険者となれば、かねて罹っている疾病について無料で入院治療を受ける途があると聞いて、適用事業所に使用され、資格を取得し、入院した場合、その資格取得が真に使用関係に基づいたものであれば第120条に該当しない。(昭和3年10月30日保理第2777号)

3.「6月以内の期間を定め」とは?
(1)傷病手当金や出産手当金の支給期間を6月以内の期間制限するという意味ではなく、決定日より6月以内の期間を給付制限期間と定め、その期間は傷病手当金や出産手当金の請求があっても支給しないという意味である。
よって、「(給付制限期間中の)事故発生の有無に拘らず6月以内の期間を定めるべきものである。」(昭和6年7月14日保理第148号)

(2)詐欺又は不正の行為に因り給付を受け又は受けんとする事故が例えば1月20日より2月1日に及び、その事実を保険者に於て認知したのが2月10日であり、2月12日に法120条により傷病手当金の全部又は一部を支給せざる期間を決定する場合、詐欺又は不正の行為のあった初日である1月20日より6月以内の期間を定めるべきものではなく、法120条の決定は将来に於てのみ之を決定すべきものであるので、例示の場合に於ては2月12日以後に於いて6月以内の期間を定め決定すべきものと解する。(昭和3年3月14日保理第483号)

4.「全部又は一部を支給しない旨の決定」とは?
(1)法第120条に依る保険給付の停止決定に関しては、傷病手当金又は出産手当金の何れか一を選択して支給しない旨の決定をするものとは限らず、情状に依っては両者を同時に停止しできるものと解する。(昭和3年7月6日庶発第766号)

(2)詐欺又は其の他の不正行為が計画的故意に依るときは凡そ保険給付を受け又は受けむとしたる日1日に付10日の標準に依り法第120条の決定を為すこと。(昭和3年10月1日保発第665号)

(3)詐欺又は其の他の不正行為の軽易なるものは同決定を為さざること。但し其の行為2回以上なるときは上記(2)の標準に依り決定を為すこと。(昭和3年10月1日保発第665号)

(4)被保険者が詐欺又は其の他の不正行為に関与すること極めて軽き場合(例えば請求書作成等の諸手続を事業主に於て為し被保険者は単に捺印するの止るようなもの)は健康保険法法第120条の決定を為さざること。(昭和3年10月1日保発第665号)

5.「この限りでない 」とは?
不正行為の事実が発見されて、給付制限期間を決定する場合において、不正行為のあった日から1年を経過した場合については、この規定による給付制限をすることができない。

■文書提出命令等に従わない場合

1.要旨
保険者は、保険給付を受ける者が、正当な理由なしに、第59条の規定による命令に従わず、又は答弁若しくは受診を拒んだときは、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。(法第121条)

2.法第59条とは?
保険者による文書の提出等を命じる場合の根拠条文。
よって、この規定は法第59条に基づき、保険者から文書の提出等を命じられたにもかかわらず、従わない者に対して給付制限を行うことで、その実施を保障するための規定である。

(参考)
保険者は、保険給付に関して必要があると認めるときは、保険給付を受ける者(当該保険給付が被扶養者に係るものである場合には、当該被扶養者を含む。第百121条において同じ。)に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員に質問若しくは診断をさせることができる。(法第59条)

3.「正当な理由なし」とは?
文書の提出等を拒む者に対して正当な理由があるか否かの判断は保険者が決定する。

■被扶養者に対する給付制限の準用

1.要旨
第116条、第117条、第118条第1項及び第119条の規定は、被保険者の被扶養者について準用する。この場合において、これらの規定中「保険給付」とあるのは、「当該被扶養者に係る保険給付」と読み替えるものとする。(法第122条)

2.準用規定
(1)第116条
被扶養者が、自分自身について故意の犯罪行為又は故意に給付事由を生じさせたときは保険給付は行われない。また、被扶養者が被保険者について故意に給付事由を生じさせたときにも被保険者に対する保険給付は行われない。

(2)第117条
被扶養者が、闘争、泥酔又は著しい不行跡によって給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、その全部又は一部を行わないことができる。

(3)第118条第1項
被扶養者が、少年院その他これに準ずる施設に収容されたとき、監獄、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されたときには、その期間はその被扶養者に関する保険給付は行われない。

(4)第119条
被扶養者が、正当な理由なしに療養に関する指示に従わないときは、保険給付の一部を行わないことができる。

  

→社会保険労務士の勉強メモに戻る
Copyright (C) 2005 社会保険労務士試験情報局 All Rights Reserved