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■社会保険労務士の勉強メモ(健康保険法)




■要旨

1.損害賠償請求権の代位取得
保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、保険給付を受ける権利を有する者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。(法第57条第1項)

(参考)
1.保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額になる

2.給付事由が被保険者の被扶養者について生じた場合には、当該被扶養者も含まれる

2.保険給付の免責
上記(1)の場合において、保険給付を受ける権利を有する者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者は、その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる。(法第57条第2項)

■解説

第三者の行為(例えば交通事故などの場合)によって生じた保険給付事由に対して保険給付が行われると、被保険者はその部分については損害が補填されたことになり、その限度においては第三者から損害賠償を受ける必要はなくなる。

しかし、被保険者が第三者からその部分についても損害賠償を受ければ、損害が二重に補填されたことになり、また、第三者から損害賠償を受けなければ、第三者は保険給付された部分に関する損害賠償額について結果的に不当利得を得たことになる。

また、第三者からすでに損害賠償を受けているにもかかわらず、保険給付を受けた場合は、被保険者は損害を二重に補填されることになる。

このような不合理を是正するために、損害賠償を受ける前に保険給付を受けた場合には「損害賠償請求権の代位取得」規定を、損害賠償を受けた後に同一事由について保険給付を受けようとする場合には「保険給付の免責」規定を設けている。

■「第三者」とは?

1.保険事故の当事者である保険給付を受ける権利を有する者以外の者。加害者がこれに該当する。

2.直接の加害者が使用主又はその被用者であるときは、それらの者も当然第三者に当るわけであり、また、使用者責任を負うべき場合にあっては、その使用主もまた第三者に含まれる。(昭和31年7月31日保文発第5828号)

■「給付の価額の限度」とは?

「給付の価額の限度」とは、保険給付に実際に要した費用の額をいう。(昭和2年6月10日保理第2469号)

■「第三者に対して有する損害賠償の請求権」とは?

1.被保険者が保険給付を受けつつある間に損害賠償を受ける場合には、賠償を受けた時以前の保険給付に関してのみ請求権を取得する。(昭和3年10月22日保理第2749号)

2.保険者は、第三者の行為による保険事故が発生したときは、保険経済の利益のために被保険者又は被保険者であった者の第三者に対する損害賠償請求権の消滅しないうちに、即ち、弁済見舞金の受領等のないうちに、この代位請求権を行使するよう留意する必要がある。(昭和26年7月6日保発第2285号)

→ 損害賠償を受け、又は免除したとき以後の保険給付に関する損害賠償の代位取得はできない。

3.被保険者と第三者との間において示談が成立し、被保険者の有する損害賠償請求権を消滅させた場合にあっても、その消滅の効力は、保険者が保険給付の価額の限度においてすでに取得している第三者に対する損害賠償請求権には及び得ない。
従って、示談成立により、被保険者が第三者に対して有する請求権を消滅させた後であっても、消滅前になした保険給付について、その給付の価額の限度において保険者は当然第三者に対する請求権を代位取得している。

4.健康保険において保険者が第三者の行為によつて生じた事故について保険給付をしたときに、その給付の価額の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求の権利を取得するのは健康保険法第57条の規定に基く法上当然の取得であって、取得の効力は、法律に基き、第三者に対し直接何らの手続を経ることなくして及ぶもので、保険者が保険給付をしたときはその給付の価額の限度において当該損害賠償請求権は当然に移転するものであり、一般の債権譲渡のように、第三者に対する通知又はその承諾を要件とするものではない。(昭和31年11月7日保文発第9218号)

5.見舞金又は見舞品は、債務の弁済たることがあり或は債務の一部弁済たることがあり或は又債務の弁済とは何等の関係を有しないことがあるので、結局個々の場合について弁済となるものか否かを決定する外はない。
なお、また損害賠償請求権において見舞品を受領するに当り債務の一部又は全部を免除すべき明示又は黙示の意思表示をなしたときは、その限度において全部又は一部の損害賠償債務は消滅する。(昭和5年7月4日保規第315号)

6.第三者の行為に因りて生じたる保険事故に付為したる給付費用額損害賠償金は健康保険法第180条の所謂徴収金に該当せざるを以て其の取立を市町村に対し嘱託すべからざるものにある。(昭和3年4月19日保発第290号)

■求償権行使の範囲

1.代位取得した権利の行使については、従来裁判所の判決において被保険者の過失が認められ過失相殺が行われた場合を除き原則として全額求償する取扱いとしているところである。
現在、第三者行為による保険事故に係る求償権、特に自動車事故に係るものについては、その積極的な行使について格別のご配慮を煩わしているところであるが、求償事務の現状にかんがみ従来の裁判所における判決以外に自動車損害賠償保障法による自動車損害賠償責任保険または自動車損害賠償責任共済において被保険者の重過失が認められ、保険金額または共済金額の減額(過失の程度により20%、30%、または50%が減額される。)が行われた場合には、裁判所の判決の場合に準じて過失により減額された割合で減額した額でもって求償して差し支えない。(昭和49年1月28日保険発第10号・庁保険発第1号)

2.第三者行為により生じた保険事故の取扱いについて
(1)第三者行為により生じた保険事故につき保険者が代位取得する損害賠償請求権は、被害者の過失の有無により影響を受けるものではないが、求償額については、被害者にも明らかに過失があると認められるときは、代位取得した損害賠償請求額を被害者の過失割合に応じて減額し算定して差し支えないこと。

(2)過失割合の認定に当たつては、両当事者の主張の内容、事故発生時の状況等を総合的に勘案し、保険者において妥当な過失割合を求めること。なお、自動車事故については、道路の状況、道路標識、信号機、運転者の動作等が過失割合の判定の要素となり、その割合を容易に認定することが困難であると思われるので、個々の事例につき、判例等に示された判断を参考とすること。

(3)過失割合は当事者の利害に影響を及ぼすものであるから、過失割合の認定の経緯等を明らかにする書類を整備しておくこと。

(4)本通知による取扱いは、昭和五十四年四月一日以後において生じた保険事故について適用すること。
(昭和54年4月1日保険発第24号・庁保険発第6号)

■「損害賠償を受けたとき」とは?

1.損害賠償を受けたときとは、保険給付を受ける権利を有する者が、第三者から現実に損害賠償の支払いを受けたときをいう。よって示談の成立のみでは該当しない。

2.損害賠償の全部又は一部を免除又は放棄した場合にも、保険者は、その価額の限度において、保険給付する責めを免れる。

(参考)
労災保険金の受給権者が損害賠償債務を免除した後の保険金給付と労働者災害補償保険法第20条第1項の適用の有無

(略)単に、被災労働者らが第三者から現実に損害賠償を受けた場合には、政府もまた、その限度において保険給付をする義務を免れる旨を明らかにしているに止まるが、労災保険制度は、もともと、被災労働者らのこうむつた損害を補償することを目的とするものであることにかんがみれば、被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務の全部又は一部を免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れるべきことは、規定をまつまでもない当然のことであつて、右二項の規定は、右の場合における政府の免責を否定する趣旨のものとは解されないのである。
そして、補償を受けるべき者が、第三者から損害賠償を受け又は第三者の負担する損害賠償債務を免除したときは、その限度において損害賠償請求権は消滅するのであるから、政府がその後保険給付をしても、その請求権がなお存することを前提とする前示法条二項による法定代位権の発生する余地のないことは明らかである。(略)
昭和38年6月4日損害賠償請求 (最高裁判所 昭和37(オ)711 第三小法廷・判決 棄却)

  

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